AERA Mook 「学問がわかる」シリーズ18
動物学・25のかたち/進化(copyright 朝日新聞社)




どんな学問か

 進化学はひとことでいうと、生物進化のメカニズムの解明と過去の生物の進化史を研究する学問である。また、進化メカニズムと進化史を探求することで、過去あるいは現在における生物の多様性を解明する学問でもある。
 たとえば、魚の中には縞模様を持ったものがいる。なぜ「縞模様をもった魚がいるのか?」という問いには、どのような説明ができるだろうか。たとえば、「成長の過程で色素をつくる部位とつくらない部位が交互に並ぶようになりその結果、縞模様にみえる」、また、「ある遺伝子が変化すると(あるいはDNAのある部位が変化すると)、縞模様を持っていない個体が縞模様を持つようになる」という説明ができるかもしれない。しかし、これだけでは、縞模様の進化を説明したことにはならない。
 なぜ進化したのか、を説明するためには、たとえば次のような説明が必要である。わずかに縞模様を持った個体は、縞模様の不明瞭な個体と比べて、捕食者に捕まりずらく、何世代もたつにつれて、縞模様がだんだんと明瞭になっていく。あるいは、遺伝子が変化して縞模様をもった個体が突然現れ、それがたまたま生き延びて広まっていく。このように新たな性質が生物集団の中に広まっていく原因も考えなければならない。
 前者の説明は、発生学、遺伝学、生理学などの分野からの説明であり、後者は、生態学、行動学、集団遺伝学などの分野からの説明である。この他にも、過去の生物進化のパターンを調べる古生物学、生物の進化してきた道筋を調べる系統学など進化にアプローチする分野は多い。特に最近では、「縞模様」といった個体の特徴ではなく、遺伝子や分子そのものの進化を扱う分子進化学が盛んである。このように、生物進化メカニズム解明には様々な分野からのアプローチが可能である。しかし、生物進化を総合的に理解するためには、様々な分野の総合的な理解が必要なのだ。


そのおもしろさは

 ドブジャンスキーという進化生物学者は「進化的観点がなければ、生物学のすべては意味をもたない」という言葉を残している。もちろん、これは誇張であるが、生物がなぜどのように進化してきたのか、に答えることは生物学の最も重要なテーマの一つであり、最もわくわくする研究テーマでもある。
 進化を実験的に再現あるいは検証することが難しいので、しばしば進化学は「お話」のようにいわれることがある。しかし、現在、進化学は様々な方法で仮説を検証していくことのできる学問になっている。様々な方法が可能であるので、これからまだまだ独創的な手法を生み出していける余地がある。
 また、進化は目の前でみることのできないものではない。グラントらは、ガラパゴスでのここ20年の間のフィンチの進化を記載・解析している(ワイナー『フィンチのくちばし』早川書房は是非読んでみるべきだ)。フィンチのくちばしやサイズは環境の変化にともなって、目にみえる速度で進化をしているのである。また、エイズウィルスや大腸菌なども新しい変異体を進化させ、人間などのホストに対抗しているのである。さらに、最近では、遺伝子の組み替え技術などをつかって、実験的に進化を検証しようとする動きもある。進化学はこれからますます面白くなる分野である。


目下のテーマは

 前にも述べたように、進化は、生物の遺伝的性質や発生の道筋がわかっただけでは説明できない。生物個体は、まわりをとりまく環境や他の生物個体と相互に影響(相互作用)を及ぼしあっている。そのような相互作用が変化することで、どのような遺伝子が集団のなかに維持されていくかが変化する。たとえば、ある生物個体は、広い範囲に動き回って、たくさんの他の個体と相互作用をしていたのが、なんらかの要因で、活動範囲が狭まり、少数の個体としか相互作用をしなくなったとしよう。このような活動範囲、すなわち相互作用の範囲が小さくなっただけで、単純には予想のつかないような進化的な結果に導くことがあるのである。私は、このような生物個体どうしの相互作用がどのように進化に影響してくるのか、といった問題を主なテーマとしている。現在、生物個体をコンピュータ上につくる「個体ベースモデル」と呼ばれるシミュレーションや、淡水性の巻貝などの野外実験などをとおして、このテーマにアプローチをしている。私は、生物の多様性の進化をとく鍵は、様々なレベルでの相互作用にあると感じている。