imidas2002(イミダス、(c)集英社 Webへの掲載は承認ずみ), pp.26-27. より


 進化とは、生物の様々な性質(遺伝的な変化によって影響をうける性質)が世代を越えて累積的に変化していくことである。多くの場合、情報を世代を越えて伝えていくのは遺伝子であり、その遺伝子が集団のなかでどう広まっていくかを左右するのが個体である。また、その変化によって進化していくのは、遺伝子そのものであったり、個体や、集団であったり、生物群集であったりする。
また、進化とは、生物が環境にうまく適応していくこと、次第に複雑になっていくことのみをいうのではない。たとえば、洞窟に住む魚の目がなくなるような退化といわれる現象も遺伝的な変化によって引き起こされており、進化といえる。
 多様な生物が進化してきた過程、生命はひじょうに複雑であり、多様である。そのために、どのように、なぜ生物が進化してきたのかを解明する進化学には、未解決の問題が多い。しかし、生物の進化現象がほとんど解明できたと考えるのはもちろん誤りであるが「進化を説明する理論は、乱立していて、どれが正しいのかほとんどわからない状態である」、あるいは、「ダーウィンの考えた進化メカニズムは誤りである」と決めつける意見も適切でない
ダーウインの進化理論と
現代進化学

ダーウィンは、進化のメカニズムを考える上での基本的な考えを提出し、分子レベルからも進化が論議されるようになった現在でも、その考えは有効である。かれの考えた進化の枠組みでもっとも重要なのが、変異型進化と分岐である(図1)。
進化の理論は、物理の理論のように一つの統一理論で生物のすべての進化の現象を説明できるというものではない。説明しようとする現象によって、また、説明対象となる生物によって、適用される理論は異なる。たとえば、自然選択説によって説明できる現象もあれば、そうでない現象もある。自然選択説は生存・繁殖を向上させるような性質、つまり適応的な性質の進化を説明できる理論であるが、その他の性質については説明しない。そのことは、ダーウィンの進化理論が間違っていることを意味しているわけではない。

一般書で普及する「勘違い進化論」

 国際的な進化の科学研究の活動の中でみてみると、ほとんどの場合、ダーウィンの進化理論の枠組みのなかで研究がすすめられている。しかし、一方、日本で書店をのぞいてみると、ダーウィンの進化論をくつがえす独自の進化論というキャッチフレーズで、多くの進化論に関わるあやしい一般書が普及している。し

かし、ダーウィンの進化論を覆すほどなら、なぜ日本のそれも、一般書でしかそれを発表しないのだろうか?現在の科学研究の中での進化学の理論と成果の適切な解説をしないで、日本だけで、それも一般書で自分の考えがいかにも正しいとして広めるというやり方は、一般の読者を欺いているといえるだろう。ここでは、そのようなあやしい説、まともな説も含めて、日本の一般書で比較的とりあげられている進化に関わる説について評価してみた(表1)

進化のメカニズムはどのように解明されるのか?

 なぜ進化してきたのかを単純には説明できそうもない生物の現象は多い。2001年にヒトの全ゲノムの大まかな塩基配列が明らかになった。その中の遺伝子の数は3万に満たないと推定されている。細胞の数が959しかない線虫の遺伝子数が2万と推定されているので、生物の複雑さと遺伝子の数にはそれほど関係がないようにみえる。しかし、このような一見パラドクスと思えるようなことが、実は、進化メカニズムの解明に示唆を与えるのである。ことのことは、同じ遺伝子がさまざまな機能や発生につかわれていること、生物の多様性は遺伝子の多様性だけでなく、複雑な遺伝子調節のネットワーク、遺伝子以外での細胞同士の相互作用など、複雑な機構が働いていることを示唆している。通常の感覚からみて、奇妙だと思える現象の解明によって進化についての理解が向上するのである。

 適応のメカニズム

自然選択によって生物がおかれている環境で生存や繁殖を向上させていく適応進化のプロセスは、多くの実証研究がなされている。細菌などを利用した実験的研究から野外での長期の観察による研究などその手法は様々である。最も有名な研究は、ガラパゴス諸島でのダーウィンフィンチの長期にわたる研究である。嘴の形や大きさが食べるえさの得やすさに関係していること、そして個体ごとの嘴の違いがフィンチの生存や繁殖に差をもたらしていること、さらに、その差によって嘴の大きさや形が数年で進化していくことなどが示された。さらに、この自然選択によって200年くらいあれば別の種のフィンチの形態に進化できることが可能であること。このような研究は、スウェーデンの鳥でも行われ、ここでは、自然選択が働いているものの、別の要因で体のサイズが進化していかないことが示されている。、

集団の中で個体ごとに性質には変異(違い)がある。その変異の一部は次世代に伝えられ、一部の変異体が集団の中を占めるようになる。さらに新しい変異体がうまれ、それが集団内に広がっていく。これが変異型進化である。集団の中での特定の変異は他の変異より子どもを多く残すために広がったり(自然選択)、偶然に広がっていく(遺伝的浮動)。また、集団は互いに交流のない2つの集団に分かれることで、それぞれに、別々の性質をもった集団が進化する(分岐)それに対して、集団内のすべての個体が同じようにある方向に進化することを変形型進化といい、ラマルクの考えた進化はこのタイプであった。

D.J. Futuyma (1997)による

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