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種分化機構の解明と生物多様性進化

河田雅圭
東北大学大学院生命科学研究科

 生物の多様性は、集団内で生じる進化と集団の分化によって生じる。特に、集団が分岐し、独立な遺伝子交流集団が生じることで、集団ごとに異なる進化が可能になる。種分化のメカニズムを解明することは、独立な集団がどのようにして分化し、多様な生物が進化してきたのかを探る上で最も重要な課題である。
 種分化とは、新たな種が形成されるプロセスであるが、ここでいう種とは、生殖的に他の集団から隔離されている集団(生物学的種概念に基づく種)のことである。従って、種分化とは、生殖隔離の機構が進化することである。しばしば、化石記録などをもとに新たな種の形成過程が論議されることがあるが、化石記録による種は形態の類似性をもとにした「形態種」である。形態の変化と生殖隔離の成立とは必ずしも関係していないことが多いので、種分化(生殖隔離の進化)と形態種の形成は区別して扱う必要がある。
 種分化のメカニズムに関しては、ダーウィン以来古くから論議されてきたが、近年になって特に種分化に関する研究が注目されるようになってきた(たとえば総説として、Barton, 2001;Howard and Berlocher 1999など)。それは、これまで未解決の問題に対して新しい理論がだされたことと、分子レベルでの研究によって、生殖隔離の遺伝的、分子的基盤が明らかになりつつあることが関連していると思われる。本稿では、種分化の研究に関して、現在、特に問題とされている点を述べることで、種分化研究の紹介としたい。

接合後隔離に関する遺伝子は、どのように集団中に固定されるのか?

 異なる集団間の個体が交配して、受精がおこっても、雑種が生存できなかったり、不妊であったりするような進化が生じることで、接合後隔離が生じる。しかし、交配によって、生存できなかったり不妊になるような適応度の低下をもたらす遺伝的機構はどのようにして進化するのだろうか? 
 Dobzhansky-Muller modelは(Bateson, 1909; Dobzhansky, 1937; Muller, 1942)、そのようなが進化が「2つ以上の遺伝子間の相互作用」によって交配後隔離が生じる場合には容易に起こりうることを示した。例えば、祖先集団の2つの遺伝子座の遺伝子型がaabbであり、遺伝子型が2つの遺伝子座でヘテロになったとき(AaBb)の遺伝子型が致死になり、それ以外の遺伝子型はそれぞれ同等の適応度を持つとする。このとき、ある一つの子孫集団ではa→Aの突然変異が遺伝的浮動などで固定して遺伝子型がAAbbになり、もう一つの子孫集団ではb→Bの突然変異が遺伝的浮動などで固定して遺伝子型がaaBBになる。これらの子孫集団間での子孫の遺伝子型はAaBbとなり、子孫集団間で交配後隔離が成立する。この過程では、各子孫集団内での遺伝子型の変化の過程では全く不適合性が生じていない。近年、Gavrilets (1997)は、Dobzhansky-Muller modelを複数遺伝座に拡張し、holey adaptive landscapeという概念を提唱している。
  実際に、接合後隔離の進化は、2つ以上の遺伝子の相互作用によって生じることがショウジョウバエなどによって示されている。上記の例では、集団内でa→Aの突然変異が生じ、Aが固定するのは、遺伝的浮動であっても、自然選択であってもかまわない。通常、集団内では、接合後隔離に関わる遺伝子は、集団内では、中立か、あるいはやや有害であると思われ、遺伝的浮動によって集団中に固定されていくと考えられる。しかし、近年、sexual conflictによる自然選択の効果で、種分化に関わる遺伝子が急速に進化することが知られている(Rice 1998; Paumbi 1998; Partridge and Parker 1999)。

自然選択によって生殖隔離は進化するのか

 地理的に隔離され分化が進んだ2つの集団が再び出会った場合(二次的接触 secondary contact)、2つの集団の個体の間で生じた雑種の適応度が低下する。このとき、適応度の低い雑種をつくらないように生殖隔離(交配前隔離)が進化する場合を強化(reinforcement)という。強化は、種分化が自然選択によって生じるプロセスでありDobzhansky(1937)によってその重要性が主張された。少しでも2つの集団の間で遺伝子流があると、雑種の適応度に関する遺伝子と交配に関する遺伝子が、組かわってしまうため(つまり、同じ集団の個体とみなして交配しても、子どもの適応度が下がるかどうかは保証できなくなる)、強化は理論的に困難であるとされてきた (Felsenstein 1981; Butlin 1987; Rice 1993)。しかし、最近の理論的研究では、より現実的なパラメターの範囲で、強化が起こりうることが示された(Noor 1999; Liou and Price 1994; Kirkpatric 1999)。また、その実例も報告されている[Sセtre et al. 1997; Rundle and Schulter 1998; Noor, 1995]。しかし、強化による種分化がどの程度一般的であるかについては、依然、論議がある。

同所的種分化は起こりうるか?

同所的種分化 (Sympatric speciation)は、地理的な隔離がなく、一つのデーム(交配している集団)において個体の分散・移動の範囲のなかで生殖隔離をしたあらたな集団が生じることである。同所的種分化では、遺伝子流がつねにある状態から、分断選択によって2つの集団に分化するというプロセスなので、強化のプロセスに関係する理論的問題(交配前隔離に関する遺伝子と雑種の適応度に関する遺伝子が独立に組み変わる)と同じ問題点が同所的種分化においても関わってくる(Felsenstein 1981; Rice 1993; Maynard Smith 1966)。しかし、これも、近年になって、理論的に同所的種分化が起こりうる条件が示されるようになってきた(Johnson et al. 1996; Kondrashov and Kondrashov 1999;Dickmann and Doebeli 1999;Kawata 2002).また、同所的種分化の実例も報告されている。

性選択のみで同所的種分化は生じるのか?

アフリカの湖に生息するシクリッド科の魚は、湖が形成された後、急速に多くの種が形成されたことで知られている。シクリッドにおいては、メスが雄の体色を選んでいることで生殖隔離が成立している例が示され、さらに、それらの間で交配が生じた場合は、生存力のある雑種が生じることが知られている(Seahausen et al 1997)。このことは、適応度の低下した雑種をつくらないように交配前隔離が進化するというプロセスはあてはまらない。生存率などに対する自然選択がはない状態で、メスがオスを選ぶという性選択のプロセスだけで同所的種分化が生じるだろか?
 近年、理論的に、性選択のプロセスだけで同所的な種分化が生じることが示された(Higashi et al 1999;Kawata and Yoshimura 2000). しかし、実際にシクリッドにおいて、性選択によって同所的種分化が生じたかどうかは、問題点が多い。
 体色で性選択を行うと思われる魚類では、メスがどのような体色の雄を選ぶかは、メスがどのような色がよく見えているかに影響しているかもしれない。トゲウオでは,赤がよく見える環境では、より赤い雄を選好する(Boughman, 2001)。また、シクリッドでは、色の見え方に関係する視物質であるオプシンの配列が、種ごとにことなっている(Terai et al. 2002)。オプシン遺伝子が進化することでメスの選好性が変化するという仮定のもとに、シミュレーションをおこなったところ、深さや場所で色の見え方が異なり、それぞれの場所に違った吸収波長をもつオプシンが適応するという状況のもとで、性選択による種分化が促進されることが明らかになった(Kawata et al in prep)。環境が均一な場所での、性選択による同所的種分化が生じる条件は厳しいかもしれない。

種分化における生態学的要因の役割はどの程度か?

 もし仮に、地理的に隔離された集団で、遺伝的浮動の効果のみで交配後隔離が成立するという様式の種分化が一般的であるとすると、環境や生物間の相互作用といった生態学的要因が種分化にかかわる度合いは最小になる。Schulter (1998)は、ニッチが空いているような新しい環境に生物が侵入した場合に、種分化の速度が早まることを示した。このことは、新たなニッチの利用といった生態学的な要因が種分化に大きく関わっていることを示している。また、フィンチのように、餌に対して適応的に進化し、異なる場所で分化したくちばしが、さえずりを変化させ、それが交配前隔離に影響を与えていることが示されている(Podos 2001)。
 しかし、長期的観点でみたとき、種分化速度の促進や抑制などに、どの程度環境要因や生物間の相互作用が影響しているのかは今後の課題である。

自然界では、異所的種分化が最も一般的な様式か?
Mayrは、多くの種分化は、地理的に隔離され、それぞれの集団で生殖隔離が進化するという異所的種分化によって生じると考えた。しかし、現実に、どの程度の種分化が異所的種分化によるものかは明らかでない。現在、パターン解析などをつかったいくつかの解析法で、調べられている(たとえば、Barraclough and Volger 2000)

生殖隔離に関する分子機構は?

 分子生物学の進展にともなって、近年、種分化の分子的機構の解明や種分化に関わる遺伝子の検出が行われるようになった。分子レベルでの研究では、(1) 種分化に関わる遺伝子を特定しその遺伝子はどのような性質をもっているか、(2)種分化に関わる遺伝子は、いくつあり、ゲノム上のどの位置に存在しているのか、(3)種分化に関わる遺伝子は、生殖隔離以外にどのような機能をもっているのか、(4)どのような遺伝子間の相互作用が生殖隔離を引き起こすのか、などが目的になる。
 たとえば、ショウジョウバエの交配前隔離(配偶者選択)に関わる遺伝子は、D. melanogasterのM 型とZ型の間では、雄の行動に少なくとも4つ、メスの行動に少なくとも3つの遺伝子座が関与しているのに対し(Ting et al 2001)、D. ananassaeでは1つのmajorな遺伝子が関係していることが示されている(Doi et al. 2001)。このようなことから、交配前隔離が進化する地理的な状況や、遺伝子が分化していく要因についての解析が可能になる(Butlin and Ritchie 2001)。 また、2つの寄主植物に分化したアブラムシにおいて、寄主植物の選好性(交配場所の選択)とそれぞれの寄主植物での繁殖力などを調べた結果、選好性に関わる遺伝子座と繁殖力に関わる遺伝子座が近い位置に存在することが明らかになった(Hawthorne and Sara Via 2001)。交配に関する遺伝子と適応度に関する遺伝子のリンクは、強化や同所的種分化を可能にしやすいという予測を支持する結果になる。
 分子機構が明らかになることで、種分化がどのようなプロセスで進化したのかということが、それだけですべてが明らかになる訳ではないが、非常に大きなヒントを提供することになる。特に、これまで理論的研究では、生殖隔離に関わる遺伝的機構は単純に仮定されてきた。しかし、今後、実際に明らかになった分子機構をモデルに取り込むことにより、より現実的な予測が可能になり、種分化のプロセスに関する理論をテストすることができるようになるだろう。

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