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2―進化のプロセス
進化の最初のプロセス―突然変異
前節では、進化とはどんな現象なのかを述べた。ここでは、どのようなプロセスが積み重なって生物進化が起こるのかについて、まとめてみることにしよう。
世代を越えて引き継がれる性質が変化することが、進化であることはすでに述べた。性質を引き継ぐ役目を果たしているのは遺伝子だから、引き継がれる性質が変化するためには、遺伝子が変化しなければならない。そして、その遺伝子やDNAが変化することを、「突然変異」という。
なぜ私たちは、最初に遺伝子の変化を考えなければならないのだろうか。
生物のもっている性質は、いろいろな要因で変化する。大人に成長したときの体の大きさは、食べ物の量や質に影響されるだろう。また、立派な角をもったカブトムシは、雄同士の戦いで角が折れてしまうこともあるかもしれない。しかし、食べ物による体の大きさの変化や、折れた角などのような性質の変化は、子どもに伝えられないので、進化とはいわない。だが、もし遺伝子の変化が原因で短い角をもつカブトムシがいれば、その「短い角」という性質は、次の世代に伝えられる可能性がある。それゆえ、進化の最初のプロセスが突然変異であるとみなされるのだ。
もう少し細かくいえば、生殖細胞(精子や卵となって、子どもに伝えられる細胞)にあるDNAが変化することが、進化にとって重要な第一プロセス、つまり突然変異である。
DNAは、前にも少し述べたように、四種類の塩基の配列が遺伝情報として複製されて、次の世代に伝えられる。この複製はかなり正確に行われるが、時にまちがって複製されることがあり、これが突然変異となる。突然変異となるDNAの変化には、一つの塩基が他の塩基に置き換わって複製される(たとえば、アデニンという塩基がシトシンに変化する)、という他にもいろいろなタイプのものがあり、その結果、個体の性質の様々な変化となって現れる。
遺伝子と個体をつなぐ発生のプロセス
突然変異によって遺伝子やDNAが変化しても、その変化が生物個体の生理的特徴や形態や行動などの変化には結びつかないこともある。しかし、表に現れた性質が変化しなくても、遺伝子やDNAが世代を越えて変化していけば、それは進化といえる。
ただし、ここでは、突然変異によって表に現れた個体の性質がどのように変化するのかをみてみよう。
遺伝子の変化がどのように個体の性質に現れてくるかは、個体が受精卵から発生して成体が作られるまでのプロセスや、細胞の中で作られるホルモンによって行動が影響を受けるプロセスに依存している。これを、進化における「発生のプロセス」と呼ぶ。
遺伝子が変化したからといって、生物はどんな性質にでも変化できるわけではない。具体的に生物個体がどのような性質に変化することができるかは、この発生のプロセスによっている。
私たち脊椎動物は、体の中に骨という内骨格をもつ動物であるが、昆虫はクチクラという硬い皮でできた外骨格をもつ動物である。だから昆虫は大きくなるためには脱皮をして、古い皮を脱ぎ捨てなければならない。古い皮を脱いで、体が少し大きくなったところへクチクラが分泌され、それが硬くなると以前より大きな外骨格ができる。しかし、もし体が象のように大きくなったとすると、脱皮してまだクチクラが固まっていない状態の時に体を支えるものがないので、自分自身の体重でつぶれてしまう。つまり、昆虫は発生の上で外骨格という構造をもとにしているかぎり、いくら遺伝子が変化しても、象のように大きな昆虫に進化することはないだろう。
このように、発生のプロセスは、遺伝子の変化つまり突然変異が、具体的にどのような個体の性質の変化として現れるのかを左右する、重要な機構である。
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雄が一匹の雌と長く付き添い、子どもの世話をするという行動(一夫一妻)と雄は子どもの世話をせずに複数の雌と交尾をするという行動(一夫多妻)の違いが、ほんの少しの遺伝的な違い引き起こされるかもしれないことが示された。
コラム:一夫一妻制と一夫多妻制の違いを引き起こす遺伝子
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頻度変化と置換のプロセス
ショウジョウバエ(図12)の雄は、ふつう雌の上にのって二十分の交尾をする。ところが突然変異によってある遺伝子が変化すると、その遺伝子をもつハエは、二十分以上経過しても交尾を続けるという。あるいは、別の突然変異遺伝子をもつものは、十分で交尾をやめてしまう。
さて、突然変異が起こり、交尾を十分でやめてしまうショウジョウバエが生じたとしよう。はたして、これだけで進化といえるだろうか。
その突然変異をもったショウジョウバエが生きているうちは、進化的な変化が起こったといえるかもしれない。しかし、そのショウジョウバエが子どもを残して、その突然変異遺伝子を伝えていかなければ、長期的にみて進化が起こったとはいえない。つまり、一個体で生じた突然変異遺伝子が進化として伝えられるためには、集団中での頻度を増加させなければならない。
このように、遺伝子の頻度やそれによる個体の性質の頻度が増加したり減少したりすることを、進化における「頻度変化プロセス」という。
次に、交尾時間が二十分の個体ばかりだった集団に、突然変異によって交尾時間十分の個体が生じ、それが頻度を増して、その集団のすべての個体が交尾時間十分になったとする。そこにまた突然変異で、五分で交尾を終えてしまうような個体が生じ、それが頻度を増加させて、集団がすべて交尾時間五分の個体になるかもしれない。
このように、新しく生じた遺伝子が集団中の個体すべてに広まることを「固定」といい、その結果、古い遺伝子が新しい遺伝子によって置き換えられたり、その影響を受けて古い個体の性質が新しい性質に置き換えられることを、「置換プロセス」という。
DNAの置換をトランプに例えると‥‥‥
頻度変化や置換が起こる原因としては、次章で詳しく述べるように、自然選択や偶然の要因などいくつかの原因が関わってくる。
交尾時間が二十分から十分になるといった単純な進化なら、一回の突然変異と、それにともなう頻度変化だけを考えればよいかもしれない。しかし、前足が翼になるとか、単純な光を感じる部位から複雑な眼がつくられるという進化は、一つの遺伝子が変化していくだけでは生じない。翼とか眼といった複雑な性質が進化するためには、おそらく何回もの突然変異が生じ、その中の特定のものが集団中に広まり置き換わっていく置換のプロセスが、多くの遺伝子で次々に生じる必要があるだろう。
そのしくみは、こんなふうに考えられるかもしれない。
トランプが五枚配られたとする。この五枚の中からランダムに一枚選んでカードを捨て、新しい一枚のカードを引く。捨てたカードは残りのものと一緒にし、よくかき混ぜ、その中からまた一枚引く。このようなことを続けていけば、五枚のカードの組み合わせは、最初の組み合わせからどんどん変化していくだろう。それに対し、手持ちの中からランダムに一枚選び、捨てる前に一枚カードを引く。その二枚を比べて好きな方を残して、もう一方を捨てる。これを続けていけば比較的速く、フォーカードやフルハウスなどが達成できるだろう。
このカード一枚を一つの遺伝子(またはDNAの一つの塩基)とすると、カードを置き換える作業を、遺伝子の置換プロセスと考えることができる。
前者のように、ランダムに捨て、ランダムにカードを置き換えていくような場合は、遺伝子の組み合わせはランダムに変化していくだろう。一方、後者のように、ランダムに選んだカードと元のカードを比べてよい方をとるというような場合は、ある規則をもった遺伝子の組み合わせやDNAの配列が生じてくるだろう。
このような頻度変化と置換のプロセスで遺伝子が置き換わっていく結果、複雑な性質などが生じてくるのである。
集団の分岐のプロセス
ここまで述べた四つのプロセス(突然変異、発生、頻度変化、置換)だけでも、生物の進化は生じうる。しかし、現在なぜ地球上に多様な生物が進化してきたのかという問いには、分岐プロセスもまた重要な意味をもつ。
このプロセスは、前節でも述べたように、一つの集団が二つ以上の集団に分かれ、それぞれの集団の中で独立した進化が起こることである(このプロセスがどのように起こるかについては、五章で詳しく述べる)。
こうしたプロセスにどのような要因が関わっているかを説明するのが、現代の進化論といえるだろう。
三〜五章では、どんなプロセスにどんな要因が働いて生物の進化が起こってきたのかを、具体的な例をあげながら、みていくことにしよう。
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