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2―適応とは何か

適応と適応度の違い
 
本書では、生物個体の生存や繁殖に役立っている性質を「適応的性質」と呼び、そのような性質が生じたり向上することを「適応進化」と呼ぶ。
 ところで、適応という言葉に関しては、いくつか注意すべきことがある。
 まず初めに、適応と適応度は異なるということを言っておかなければならない。
 個体の生存や繁殖に役立っている性質を適応的性質というわけだが、適応的性質をもつ個体の適応度(一生に残せた子どもの数を、同じ集団の他の個体のものと比較した相対値)が必ず高いというわけではない。
 たとえば、高いくちばしをもつ個体の方が食物をうまくとることができるとき、集団中に他の個体よりくちばしの高い個体が突然変異で出現したとすると、確かにその(くちばしの高いという)性質は、その個体の適応度を増加させるだろう。しかし同時に自然選択が働いて、集団の個体すべてが効率の良いくちばしの高さになってしまうかもしれない。そうすれば、みんな同じように効率のよいくちばしをもっているのだから、適応度はみんな等しくなり、すべての個体の適応度は一となる。つまり、適応的といわれる性質をもつ個体の適応度は、必ずしも高いとはいえないのである。
 また、適応的性質は、自然選択によってのみ進化するとはかぎらない。あるトカゲの例でみてみよう。
 砂漠にすむトカゲには、水分の消失をできるだけ防ぐために、体外に有毒物質を濃縮して分泌するものがある。このトカゲは、その分泌物のおかげで捕食者に食べられずにすんでいる。つまり、その分泌性質は、個体の生存に役立つ適応的性質となっているわけだ。
 けれども、もともと「苦い有毒物質を分泌する」という性質は、砂漠で生活するために必要な代謝機構によって結果的につくりだされた付随物である。まず砂漠で生活することが第一で、そのためにトカゲは「苦い物質を分泌する」という性質を獲得し、その後その性質は、「捕食を避ける」という役目も果たすようになったのかもしれない。つまり、苦い分泌物を出すという性質によって個体の適応度が高まり、自然選択でその性質が集団中に広まったのではない、といえる。
 以上、適応と適応度の違いをまとめてみよう。「適応」とは、ある環境条件のもとでの生物個体の生存や繁殖に役立っている性質である。それは進化の結果としてみられるものであり、必ずしも自然選択の原因にはならないし、自然選択によってのみつくられるのでもない。一方、自然選択は、同じ集団の中で相対的に「適応度」の高い個体に有利に働く、つまり、適応度の差は自然選択の原因になっているのである。

適応進化における自然選択の役割
 前章で紹介したコウウチョウは、托卵先のツリスドリが卵を区別することが多い地域では、ツリスドリとよく似た卵を産み、区別しないところでは、あまり似ていない卵を産む。これは、生物が周りの環境に応じて相対的に有利な性質をもつように進化している例といえよう。
 では、自然選択の作用なしに、このように進化することができるだろうか。
 前項で述べたトカゲの例のように、「苦い物質を分泌する」という性質が偶然に「捕食者から逃れる」という性質に結びついて、自然選択の作用なしに集団に広まったということもありうる。しかし同じ砂漠の中でも、地域によって捕食者の種類が異なり、各地域のトカゲはそれぞれの捕食者に最も効果的な「忌避物質」を分泌している、という現象があるかもしれない。けれども、そのような周りの環境にちょうどみあった性質が、偶然に進化するということは考えづらい。
 ある環境で、以前より生存や繁殖を向上させるような性質を増加させるためには、その性質が有利なものかどうかを判断する機構がなければならない。
 北海道で雪虫として知られているアブラムシがいる。この雌は、産む子どもの数に応じてその性比を産み分ける。
 たとえば、餌条件が悪く、多くの子どもを産めないときには、子どもはすべて雄になる。餌条件のよい場合は、雄だけでなく雌も産むようになる。産める子どもの数が増えるにつれて、性比は雌に片寄ってくる。それらの性比は、置かれた環境の中で結果的にもっとも多くの子孫を残すような値になっているのである。
 しかしアブラムシ自身が、あるいはアブラムシのもっている何らかの機構が、その時の環境条件に応じて性比を計算して調節しているとは、考えにくい。彼らが環境に応じた性比を獲得しているのは、「最適な性比をとる」という個体の性質が、自然選択によって増加した結果である。
 このような「適応的性質」という結果をもたらす原因としては、現在のところ、自然選択以外の機構はみあたらないのである。

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