Previous Page - Page 16 - Next Page [ 目次]


5―共進化と共生関係

クジラとイカの”イタチごっこ”
 イルカやクジラは、ソーナー(超音波によって目標物の位置を知る方法)を使って獲物を見つける。音波を出して魚やイカなどから反射してくるエコーを聞き分け、獲物の方向や距離を知るのだ。コウモリも同様に、超音波を出して獲物の位置を見つけることで知られている。
 潜水艦や戦闘機は、相手のレーダーやソーナーに捕らえられないような工夫がなされている。一つの方法は、相手のソーナーをいち早くキャッチして逃げることである。生物界でも同様に、コウモリの餌となる蛾は、コウモリの出すソーナーをより遠くで聞くことができ、コウモリが現在どの方向にいるかによって飛び方を変えている。
 しかしイカやタコは、イルカやクジラのソーナーを聞くことはできない。なぜなら、彼らには音を聞く耳のような器官がないからだ。一説では、クジラは餌を捕らえるとき非常に大きな音を出して、相手を気絶させて捕まえるので、タコやイカは音を聞こえなくして、それを避けているのだともいう(もっとも、この説は疑わしいが)。
 音が聞こえないかどうかは別として、イカやタコや多くの魚は、捕食者のソーナーに対して無防備ではない。たとえば、魚の浮袋は空気が入っているためよく音を反射するので、クジラやイルカのソーナーや漁師の魚群探知機は、その反射音をキャッチして魚を見つけている。そこで魚の中には浮袋をもたないものも現れ、ソーナーからうまく逃れることができているのだ。また、イカやタコなどは、温度や塩分濃度の異なる層の境界を泳いでいるともいわれる。そういった境界はソーナーを強く反射するので、イカやタコを見つけるのが難しいからである。潜水艦が相手のレーダーに感知されないように次第に改良されていくように、魚やイカやタコなども、捕食者のソーナーから逃れるような性質を進化させているのかもしれない。
 しかし、クジラの方もまた、相手の対ソーナー戦略に対抗するような性質を進化させても不思議ではない、魚が大群でいると、クジラのソーナーはうまく機能しないらしいが、そんなとき、クジラは最初に大きな音を出して相手に衝撃を与えて、一瞬気絶させ、その後、ソーナーで分散した個体を追跡するという手段を使っているという。

「軍拡競争」による共進化
 前項のように、餌となる生物(被食者)は捕食者がどのように餌をとるかに対抗して、捕食者から逃れるような性質を進化させる。逆に捕食者は、その被食者の性質に対抗できるような性質をさらに進化させることもあるだろう。
 このように、異なる生物(異なる遺伝子交流集団に属する生物)同士がお互いの影響を受け合って進化していく過程を、「共進化」という。この進化も、これまで述べてきた自然選択による進化と基本的に同じである。つまり、捕食者からよりうまく逃れられる性質をもったものが、集団内に増加していくことによって起こるのだ。
 潜水艦とそれをキャッチする戦闘機の関係のように、互いの戦略がエスカレートしてどんどんと改良を重ねていくことになぞらえて、捕食者と被食者が互いに対抗戦略を進化させ続けることを、「軍拡競争」呼ぶ。前述のクジラとイカの関係は、まだはっきりと証明されたわけではないが、この「軍拡競争」の一例といえるかもしれない。「軍拡競争」は、寄生者-宿主の関係でもみられる。病原菌やウイルスに感染すれば、その宿主である動物は、病気にならないような性質を進化させ、逆に病原菌やウイルスは、宿主の防衛戦略に対抗して、新たな感染性質を進化させる。抗生物質が効かない細菌が出現するように、医学によって細菌やウイルスの感染や増殖を防ぐ手段が開発されても、すぐそれに対抗できる新たな病原体が進化するという現象は、共進化における「軍拡競争」といえよう。

「共生」における共進化
 このような共進化の関係は、捕食者-被食者、寄生者-宿主の関係だけでなく、同じ餌を利用する異生物間の競争関係、また、異生物が一緒に生活する共生関係などでみられる。
 「共生」とは、広い意味では、異なる生物が密接に関わり合って生活する場合すべてを意味するのだが、ここでは、異なる生物が互いに利益を及ぼし合っている共生関係(シンビオシス)についてみてみよう。
 たとえば、花を訪れる昆虫は、蜜をもらうかわりに花の花粉を運ぶことで、お互いに利益を得ている。花をつける植物の側では、より多くの昆虫を引きつけることができるように、花の色や形や蜜の成分が進化するだろう。昆虫の側では、蜜がよりうまく吸えるように、口の形が進化するかもしれない。
 また、牛の胃に棲む微生物は、ウシが餌をもたらしてくれるかわりに、餌の成分であるセルロースを分解してウシの消化を助けている。さらに、ウシの胃の中で死んだ微生物は、タンパク源としてウシに利用される。ウシの方でも、微生物が草を発酵、分解しやすいように大きな胃を進化させ、また微生物もウシの胃の中でうまく繁殖し、ウシには害を与えないような性質をもったものが進化する。この微生物は、ウシの子どもが母親のフンや口のまわりをなめることで、代々伝えられていく。
 こうした進化は、共生関係にある生物同士による「共進化」といえる。
 さらに、密接な共生関係が進化したものとしては、細胞とその器官である葉緑体やミトコンドリアとの関係が知られている。葉緑体やミトコンドリアは、はじめは独立した生物だったと考えられているが、現在では、一つの生物の細胞の器官として機能している。宿主の細胞に有機物やエネルギーを供給する代わりに、細胞内で保護をうけ、維持に必要な成分をもらっているのだ(図17)。
 このように、共生関係には、別々の生物間にみられるものから、一つの生物体のようにふるまっているものまで多彩である。この共生関係の進化もまた、「他の生物と共生する」という性質が、自然選択によって同じ生物集団の中に広まった結果なのである。
 最後に一つ。ウシが微生物と共生するように、一つの生物の遺伝的な変化ではなかなか進化できない性質(セルロースを分解するというような)でも、遺伝的に違った性質をもつもの同士が一緒になって、新しい性質を獲得するということができる。つまり、共生は新しい性質の進化にも重要であることを申し添えておこう。

Previous Page - Page 16 - Next Page [ 目次]