| Previous Page - Page 21 - Next Page [ 目次] 4―進化を制約するもの 幼形進化のプラス・マイナス アメリカサンショウウオのあるものは樹上で生活する(図21)。これはもともと地上性のものから進化したと考えられ、地上性のものより体が小さく、葉の上をはうことができるように進化している。 ハーバード大学のアルバーチらが、樹上の種類と、その祖先を類似した地上性の種類とを比較した結果、樹上性サンショウウオは、地上性の子どもの頃に似ていることがわかった。 つまり、地上に棲んでいたサンショウウオが子どもの段階で成長をやめ、小さい体と、木を登ったりするのに適した短い指をもつ小さな手足のまま、性的に成熟する方向に進化したものが、樹上性サンショウウオなのだ。 このように、成長が停滞し性成熟が早まることを、「幼形進化」という。幼形進化では、祖先の幼体が大人の形態として現れることもある。 サンショウウオが樹上の生活に適した小型の体をもつように変化する。これによってサンショウウオは、樹上の生活に適応的な性質を獲得することになる。体が小さいとか、手足が小さいというように。だが同時に、成長が途中で停滞してしまったことにより、適応的とはいえない性質の変化も生じしている。たとえば、骨格の多くは縮んだ状態になっており、頭骨、背骨、手足などの骨でみられる「小型化」は、動きなどの面で不自由をもたらしているかもしれないのだ。それは体の中の生理的な機能においても、制約をもたらしていると考えられる。 こうした非適応的な性質の変化というのは、体の一部が適応的に変化するためには他の部位も付随して変わらざるをえない、という個体発生上の制約によって生じるものと思われる。進化が一方では適応性をもたらし、その反面、非適応性をともなうこともあるという、進化の二面性をよく色表す例といえよう。 指の数は自由に進化できない 右のサンショウウオの例では、体が小さくなり、手足も小さく進化する過程で、手足の指の骨のいくつかが消失したり、ある骨とある骨が結合して一つになったりしただろうと思われる。 一般に、脊椎動物は五指をもったものから進化し、そのいくつかが消失したり結合したりして、いろいろな指の数や形態に進化したといわれている。たとえば、今日ウマは指一本で立っているが、この指はもともとは三番目のいわゆる中指であったとされている。ウシやシカは二本指で立っているが、これは三番目と四番目の指(薬指)が残ったものであるという(図22)。いずれも、もともと祖先が五指をもっていて、そのどれかが消失することによって指の数が変わってきたと考えられているのだ。 しかし、この考え方は誤っているのかもしれない。というのは、まだ指の形もできていないような状態から指がどのように発生していくかをみていくと、指の前段階になる細胞からすぐに五本の指ができてくるのではない。まず指や手のひらになる部分に細胞が集まってきて、一つの細胞の塊をつくる。そして、その先の部分が二つに分かれる。さらに、その二つに分かれた部分がちぎれたり、また二つに分かれたりして、指が形成されていくのだ。 では、なぜ一度に五本指に発生していかないのだろうか。それは、細胞同士の相互作用や物理的な力が働いて、順次、二つに分かれたりちぎれたりして何本かの指が生じていくように、発生のプロセスを導いていると考えられるからだ。 指の発生をこのように考えると、細胞の塊が二つに分かれる過程やちぎれ方が異なると、指の数や形態が異なるものができることが理解される、そうなると、指が二本の生物は、五本のうちの二本が残ったのではなく、細胞の塊が二本に分かれた段階で発生が終わったのかもしれない、とすると、五本の指の中にはその二本と同じ指はないということになろう。 さて、そういう発生の仕方によって、指は何本にもなりうるのだろうか。現実には、細胞の塊が二つに分かれること、ちぎれること、という二つのプロセスを繰り返してつくれる指の数や形態には、限りがあるだろう。したがって、どんな形や本数にも進化するというわけにはいかない。 以上のようなことから、生物の体を形成する発生のメカニズムそれ自体が、同時に生物の形を制限していることがわかる。つまり発生のメカニズムは、生物の形がどのように変化していけるかを左右する、進化の制約となっているのだ。 進化を制約する突然変異 進化を制約する要因としてはもう一つ、突然変異があげられる。というのは、突然変異は前にも述べたように、進化の第一歩である遺伝的変異を供給するものである。ということは、反面、もし特定の突然変異が起こりやすかったり、逆に起こりにくかったりすると、進化の方向が特定の方向に制限されてしまうからである。 突然変異はDNAの塩基配列が変化することであるが、基本的には、DNAの塩基配列はどんな配列になることも可能である。そこで、突然変異には制約がないといわれている。 しかし現実には、DNAの部位によっては、突然変異が起こる率が異なっているとか、ある方向への変化が起こりやすい、ということがある。ということは、生物のもつ性質には変化しやすいものとそうでないものがある、ということになる。つまりは突然変異もまた、進化の制約要因となるのである。 以上、この章では、自然選択によらない進化や、適応進化の妨げになるもの、あるいは進化的な変化に制限を与える要因について述べてきた。 しかし適応進化と非適応進化とは、厳密な区別はむずかしいことがある。適応進化のところでも述べたが、最初に非適応進化によって生じた遺伝的な性質が、その後、環境が変化すると自然選択によって集団中に広まり、適応進化が生じた、というようなことがあるだろう。 進化にはいくつもの要因が働いており、生物の性質によって、どの要因が大きく影響しているかは様々に異なっている。進化とは一面的にはとらえることが難しい性質のものであることを、十分理解してほしい。 Previous Page - Page 21 - Next Page [ 目次] |
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