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2―化石の進化のパターン

化石の示す断続平衡現象
 
本説では、化石の調査からわかる、大進化のもつ性格をいくつかみていこう。
 シーラカンスやカブトガニは「生きた化石」といわれる(図23)。これらの生物は、数億年前に棲んでいたと思われるものと基本的な構造が変化していないので、「生きた化石」と呼び習わされるのだ。
 しかし、生きた化石といわれるからといって、昔からまったく変化していないわけではない。シーラカンスなどは、三〜四億年前の地層から見つかるものと外見上はよく似ているが、解剖学的には異なる点がある。第一、化石のシーラカンスと現在のシーラカンスの類縁関係は、まだよくわかっていないのだ。
 一般に化石と原生種の類縁関係はよくわからないことが多いが、少なくとも、いろいろな地層で発見される化石を調べてみると、長い年月の間、基本的な形態はあまり変化しないで安定な状態にある、という傾向がみられる。また、新しい形態をもつ化石は、ある地層に突如として現れ、その後長い年月の間、形態はふたたび安定して、あまり変化しないという傾向がある。このような現象はかなり以前から知られていたが、一九七○年のはじめに古生物学者のエルドリッジとグールドが、これを「断続平衡現象」(「区切り平衡」あるいは「分断平衡」とも訳される)と呼び、注目を集めるようになったのである(図24)。
 この断続平衡現象が広く見られることは、多くの研究者が認めている。しかし、それが特に注目されたのは、この現象自体ではなく、この現象を説明する理論が特異だったからである。その理論は「断続平衡理論」と呼ばれ、化石に見られる形態の安定性や突然の変化を、次のように説明する。すなわち、化石の形態が急激に変わるようにみえるのは、新しい種ができるときにのみ生物は急速に形態が変わり、その変化がすんでしまうと後は(四章で述べたような発生の制約によって)形態的安定が保たれるからだというのである。
 仮に、生物は次第に体のサイズを大きくしていく進化傾向があるとしよう。これまでに紹介したプロセスでこの現象を説明すると、次のようになる。集団の中に少し体の大きな個体が生じ、それが自然選択で集団中に広まっていくことが何世代にかわたって起こった結果、徐々に体の大きな個体に進化していく。あるいは、遺伝的な浮動で、本来大きさはランダムに変動しているのだが、それがたまたま大きな方向への変化だった、というように説明できるだろう。
 ところが断続平衡理論によると、形態が変わるのは種ができる(種分化)のときだけなので、間より大きな体のサイズをもった種が生じる傾向もまた、種分化の際のみみられるのだという。あるいは、種分化のときにはサイズの大きいものも小さいものもできるのだが、小さいものはより絶滅しやすいために、次第にサイズの大きい種が残っていくのだという。
 だが、この理論の根拠がいささか怪しいものであることを、以下に述べよう。

断続平衡説はなぜ誤りなのか
 化石から得られる情報というのは、主に形態に関するものである。したがって、化石の研究ではほとんどの場合、種を形態の類似性で分類している。しかし前にも述べたように、進化の単位となっている繁殖集団や実質的遺伝子交流集団は、形態によって認識するのはほとんど不可能である。
 たとえば三葉虫のあるものなど、尾部に見られる肋の数(図25)が十一本と十三本のものとあり、それぞれ別の種として分類されていた。その分類からすると、あたかも十一本の種から十三本の種が突然できたようにみえ、まるで断続平衡説を支持するように思われたのである。
 ところが多くの化石を調べてみると、その肋の数は実は十本のものから十四本のものまであって、その中でも十二本のものが最も多いという、連続的な分布をすることがわかったのだ。そうなると、十一本のものと十三本のものを別種にする根拠があまりなくなってしまう。十本の肋をもつものも十四本のものも、同じ遺伝子交流集団であったかもしれないし、肋の数とはまったく関係なく、複数の遺伝子交流集団が存在していたのかもしれない。
 このように、現在、化石の上で種といわれているものは、生存中に遺伝子交流集団や繁殖可能集団であったどうかとは一致しないのである。
 つまり、化石は形態によって種を分類しているので、種分化をしたときに新しい形態が生じその後は長期間変化しない、という現象は定義上、当然のことになる。しかし、それはあくまで形態が変化しているということであって、このとき新しく生殖的に隔離された集団ができているとはかぎらないのだ。
 また逆に、生殖隔離=種分化が生じたからといって、形態も変化するとはかぎらない。したがって、急激に形態が変化していることと種分化を、一義的に結びつけてしまう断続平衡理論は、適切な理論とはいえないのである。


化石の進化の速さ
 
では、化石の形は長い間安定していて突然に変化する、という説明は正しいだろうか。答えは、半分イエスであり、半分はノーである。
 海産の無脊椎動物、特に腕足類(一章でも紹介したシャミセンガイなど)の化石をみると、長い年月、変化しないことは確かなようだ。しかし一見、変化してないようにみえる化石でも、まったく変化してないわけではなく、短い時間間隔で調べてみると、小刻みに変化している可能性がある。
 化石の形がどれくらいの早さで変化しているのかを縦軸にとり、比べた化石の年代が時間的にどれくらい離れているかを横軸にとる。すると、図26の点線のような関係が大まかに示される。
 たとえば、一千万年くらい離れた二つの地層から採集できる無脊椎動物の化石を比べてみると、その形はあまり変化していないのだが(図の26の点B)、一万年くらいの間隔で調べることのできる哺乳類の化石をみると、約百倍もの速さで変化している(図26の点A)。つまり、体の大きさは絶えず大きくなったり小さくなったりしているので、短い間隔で調べると結構変化しているのだが、長い年月で調べるとあまり大きな変化はないようにみえることがあるのだ。
 このように、化石における形態の進化速度は、断続平衡現象にみられるように、一見、長期間安定しているようだが、実は調べることのできる化石がかぎられているために、そのようにみえるのかもしれない。

化石のギャップは本当に進化のギャップか
 
Aという形からDという形に、化石の形が急激に変化しているようにみえるとき、それはA→B→C→Dと段階的に変化したのか、それともA→Dというように、中間型を経ないで一挙に変化したのだろうか。
 もっとも考えやすいのは、A→B→C→Dに変化するのが急激だったので、BやCが化石として残らなかったのではないかという説明である。
 化石として残るのはごく一部であり、どの生物が化石となるかは、いろいろな要因に左右される。
 たとえばシーラカンスは、三〜四億年前の化石以来、その中間をつなぐ化石はみつかっていないにもかかわらず、現在よく似た生物が生きている。しかし、だからといって、現在生きているシーラカンスが、最近になって突如出現した種だという人はいないだろう。彼らは三〜四億年前からゆっくりと変化しながらも、基本的形態は保って生き延びてきたのだが、その間は化石としては残らなかったのである。それは、現在のシーラカンスの個体数が非常に少ないように、おそらく祖先も同様に個体数が少なかったために、化石として残らなかったのだろう。
 また霊長類のある種の化石の場合、二百万年から三百年前の間が抜けて、その後突如新しい種類の化石が見つかっていた。そのため、これは中間型がなく、新しい種類が突如生じた好例とされていた。しかし最近になって多量の化石が見つかり、千年ぐらいの時間間隔で変化をみることが可能になった結果、今までギャップと思われていた間をつなぐ中間型が見つかったのである。
 こうした例のように、化石でみられるギャップの大部分は、まだ中間型の化石が見つかっていないか、化石になりにくかったかの、どちらかの理由によるものなのである。
 しかし、中には中間型がなく、本当に突如変化したという例もあるかもしれない。それは、ほんの少しの遺伝的な変化でも、形態が比較的大きく変化するような場合だ。
 アンモナイトでは、成長の過程で殻をどちらの方向につぎ足していくかが少し変化しただけで、その形態が中間型を経ずに急激に変化することもありうる。また、ショウジョウバエでは、一つの突然変異で翅を一対増やしたり、頭の触覚を脚に変えたりすることが知られている(図27)。
 これらの突然変異は、遺伝的には少しの変化でも、大きな形態変化を引き起こすのが可能なことを示している。化石にみられるギャップには、こうした突然変異による形態的突然変化もあるのかもしれない。 

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