種とはなにか


このコラムはシリーズ「進化学」(岩波書店)の第6巻、第1章の原稿の基になっています。


  種には、現在、22以上の定義が存在している (Mayden, 1997) 。もし、自然界には、集団レベルで、どの生物にもあてはまる基本的で重要な一つの単位(種)が存在するなら、研究が進むにつれて、どの研究者も納得するような定義に次第に落ち着いていくはずである。しかし、実際には異なる種の定義は次第に増加している、とマイデンは指摘している。つまり、集団レベルで、どの生物にもあてはまる基本的で重要な一つの単位である種というものを定義することは不可能であり、生物の集団をどうとらえるかは、研究者によって、また、生物によって、様々であり、まさにその多様さが、進化によって作られた結果であるといえる。

 そのような多様な集団のありかたの中で、進化学上よく使われる種の定義としては、生物学的種概念、系統学的種概念などがある。生物学的種概念によると、互いに潜在的にあるいは実質的に交配可能な個体の集団の集まりであり、他の同様の集団とは生殖的に隔離されている。この定義は、生物がどのように分岐し、多様な生物を進化させてきたか、を考える上で重要である。生物は、生殖が隔離されていることで、他の集団からの遺伝子の流入による交雑の影響なく、それぞれの集団で独自の進化が可能になるからである。種分化というプロセスは、生物学的種概念をもとにした、種がどのように形成されるかということを問題にしている。

 しかし、実際の生物では、繁殖可能かどうかで、生物を認識、分類することが困難な例は多い。現在分類学上で種名が登録されているものの中で、この生物学的種概念に相当する種は、それほど多くないと思われる。また、系統学的種概念は、同じ起源をもつ単系統群を種として認識するものであるが、形態や生態が違ったり、お互いに交配でなかったりする生物群が同じ単系統群に含まれたりすることがしばしばあるので、うまく適用できない場合が多い。

 生物学的種概念や系統学的種概念といった種は、進化の結果やプロセスをもとにした概念であると思われる。それに対して、古典的な分類学上の種は、鑑別分類による種であり、これは、人間が形態などによって区別できるものを種とみなしている。進化によって作られる生物の集団は様々な様式をとるので、進化の結果やプロセスをもとにした種概念は、進化を考察する上で重要ではあるが、すべての生物を分類するような単位にはならない。逆に、分類することを目的にした場合、人間は、うまく認識できるように、階層的な分類を行う。このような階層的な分類というのは、必ずしも進化の結果を表しているとは限らなし、自然界が階層的になってるということでもない。従って、最近では、生物をラベルすることを目的にした、 DNA 分類という考え方も提唱されている。 また、生物保全のためには、分類学上の種ではなく、保全すべき集団は何かという観点からの集団の単位 (Evolutionary Significant Unit) も考えだされている( たとえば Crandal et al. 2000)   

 

Crandall K. A. , Bininda-Emonds O. R. P., Mace G. M. and   Wayne R. K. 2000. Considering evolutionary processes in conservation biology. Trends in Ecology and   Evolution 15: 290-295.

 

Mayden R. L .1997. A hierarchy of species concepts: the denouemant in the saga of the species problem. In: Claridge M. F. , Dawah H. A. and Wilson M. R. (eds), Species: the Units of Biodiversity. Chapman & Hall, London, 381-424.

もどる (c)河田雅圭