マルハナバチ国勢調査
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マルハナバチってどんな虫?

マルハナバチは大きいハチなので、危険な昆虫と思われている方が多いと思います。しかし彼女たちは、つかんだりしなければ、さわったくらいでは刺すことはありませんし、花に止まっている姿をのぞき込んでも襲ってくることはない、とてもおとなしい昆虫です(近づいても安全です)。羽音が大きいので最初はびっくりすることもありますが、花にとまって一心に餌を集めている姿は、長い毛で覆われたまんまるな姿と相まって、とてもかわいらしいものです。ちょっとおっちょこちょいなところもありますが、花から花へ飛び回る、愛くるしいぬいぐるみのような昆虫、それがマルハナバチです。

●マルハナバチの1年

マルハナバチはミツバチと同じ社会性の昆虫で、巣(コロニー)を作り、1頭の女王バチと、彼女から生まれたたくさんの働きバチ、繁殖期にだけ生まれてくる雄バチからなる家族で生活します。ミツバチと違い、女王バチの寿命は1年で、毎年新しい女王バチが新しいコロニーを作ります。  長い冬を土の中で越した女王バチは、春、冬眠から目覚め、新しいコロニーを作る場所を探します。巣を作る場所として、主にネズミの古巣など、土の中にあけられた穴を利用します。巣を作る場所を決めた女王ばちは、自身が分泌するロウと花粉を混ぜ合わせて育房(幼虫が育つ部屋)を作り、花から集めてきた花粉と蜜を混ぜ合わせて詰め、そこに産卵します。この卵が孵化し、成虫となるまでの間、女王バチは育児に大忙しです。子供たちのために餌を集め、巣にいる間は育房を抱いて暖めます。最初の働きバチが生まれると、女王バチはようやく産卵に専念できるようになります。働きバチの数が増えてくると、外に出て餌を集めるものと、巣の中にいて育児や巣の管理を担当するものとの分業化がすすみ、コロニーもだいぶ落ち着いてきます。種類によっては、最盛期には働きバチが数百頭を数える大きなコロニーに発達することもあります。

さて、夏が過ぎ、秋の声が聞こえるようになると、女王バチは生涯最後の大仕事に取りかかります。次の世代を担う、新女王バチと雄バチとなる卵を産むのです。これが終わってしばらくすると、女王バチはその生涯を閉じます。働きバチはせっせと新女王バチや雄バチとなる幼虫に餌を与えます。特に新女王バチとなる幼虫には、他の幼虫よりも長期間にわたって餌を与え続けます。こうして秋には立派な新女王バチと雄バチが生まれてきます。雄バチはいったんコロニーを離れると、再び戻ることはありません。あちこち飛び回り、あるいは待ち伏せをして、新女王バチとの出会いを探します。新女王バチとの交尾を果たした雄バチは、冬が訪れる前に静かにその短い生涯を閉じます。一方、新女王バチは、生まれ育ったコロニーを離れて長い冬眠に入り、再びやってくる春を待ちます。

●送粉昆虫としてのマルハナバチの重要な性質

1)体温を一定に保つ

昆虫は変温動物なので、体を休めているときには体温が下がってしまいます。しかし活動し続けるためには、体温を高く、しかも一定に保たなくてはなりません。昼間活動する昆虫の多くは、休んでいるときには日光に当たることによって体温を維持しています。しかしマルハナバチはその代わりに、胸の筋肉を収縮させることで熱を発生させ、止まっているときでも体温を活動に適した状態に保つことができます。この性質は特に気温が低いときや、天候が優れない時に自由に活動する上で重要です。筋肉の収縮によって体温を高く保つ方法は、他のハナバチでも採用されていますが、マルハナバチはその上に体が大きく、全身が長い毛で覆われていて、体温を保つ上でさらに有利な体の構造を持っています。このためにマルハナバチは、他のハナバチが動けないような低い気温(5℃程度)でも活動が可能です。この性質によって、特に早春に花をつける植物や、寒冷な地域の植物にとって、マルハナバチは確実な送粉昆虫となります。

2)高い認識能力・記憶能力と定花性

マルハナバチは花の色や形を、正確に認識・識別する能力があることが、実験で確かめられています。そして花の色や形を、その花がどのくらいの蜜や花粉を持っているのかという情報と統合して記憶する能力を併せ持っています。これらの情報を元に、マルハナバチはそのときに最も効率よく餌が得られる花を、集中的に訪れます。この性質を定花性と呼びます。そのときマルハナバチに選ばれた花にとっては、花粉が他の種類の花に届いてしまって無駄になることが少ないという意味で、これはとてもありがたい性質です。その代わりマルハナバチに選ばれるためには、それに相応な餌を用意しておかなければなりません。

3)強い飛翔能力

マルハナバチは体重とほぼ同じ重さの蜜を積み、さらに体重の2割ほどの花粉を持って飛び回ることできます。一度巣から飛び立つと、その間にたくさんの花から餌を集めますので、より素早くたくさんの花で花粉のやりとりを仲立ちします。時に巣から数キロの所まで餌を採りに行ったり、さらには野宿をしなくては帰って来られないほどの遠くへ出かけることもありますので、遠く離れた花の間の花粉の受け渡しにも関わっています。マルハナバチの飛翔能力は、花に対する高い認識能力とあわせて花粉の受け渡しに強い威力を発揮します。

●マルハナバチの食事

マルハナバチが一生涯に口にする餌は、すべて花から得られるものです。幼虫は花粉と蜜を練り合わせたものを食べて成長します。花粉は体を作るタンパク源や脂肪分、蜜はエネルギー源になります。成虫になるとやがて蜜しか口にしなくなります。マルハナバチはたくさんの子供たちを育てるため、たくさんの花粉や蜜を必要とします。マルハナバチが訪れる花は、それぞれの働きバチによって違っています。働きバチを集めて並べてみると、その理由がわかります。マルハナバチは同じ種類、あるいは同じコロニーの中でさえも、働きバチごとに体の大きさがとても違っています。これはマルハナバチが幼虫の時に、数頭まとめて育房の中で育てられることによります。そのときにたくさん餌を食べられたものは大きな働きバチに、餌にあまりありつけなかったものは小さな働きバチになります。小さい働きバチは巣の外に出ず、もっぱら巣の維持管理、幼虫の世話などに従事します。これは幼虫を一頭一頭、正確に同じ大きさの育房の中で育てるミツバチとは大きな違いです。このためマルハナバチは、さまざまな花から蜜を集め、同時にさまざまな花の受粉に携わっているのです。

●マルハナバチの訪花習性

マルハナバチは、クイーンがめざめる春から、コロニーが解散する秋まで、いろいろな種類の花に訪れ、花粉や蜜を集めていきます。しかしでたらめに訪れる花を決めているわけではありません。マルハナバチには彼女なりのくせがあって、その時々に訪れる花を決めているのです。ここでは、マルハナバチが花を訪れるときのくせについて見てみましょう。

主選好と副選好

花に訪れているマルハナバチに、一個体一個体マークをつけて調べてみると、同じ個体が繰り返し同じ種類の花に訪れていることが多いことがわかります。マルハナバチは、花を探し始めた最初の頃は、いろいろな花にちょっとずつ訪れて「品定め」をしますが、餌が多い、自分の体のサイズにぴったりで餌が採りやすいなどの理由で、ある花が気に入ると、そこの花に繰り返し訪れるようになります。あるマルハナバチが主に訪れている花を、その個体の「主専攻」と呼びます。しかし、主専攻の花もいつまでも咲いている訳ではありません。主専攻の花が終わってしまったら、次の花を探さなければなりません。しかしまた最初から探しなおしていたのでは、無駄な時間を過ごしてしまうことになります。マルハナバチは主専攻を決めて、主にその花に訪れている時も、別の花にも足を運んで「調査」を繰り返しています。あるマルハナバチが訪れる主専攻以外の花を「副専攻」と呼びます。主専攻の花からもはや期待したほどの餌が採れなくなったとき、マルハナバチは副専攻の中の一番よい花を、新しい主専攻とします。こうして進む花の移り変わりに、マルハナバチはうまく対応して、効率よく餌を集めています。