東北大学 生物多様性進化分野 河田研究室

異なる視点から考えるニホンミツバチ「熱殺蜂球形成」〜コストの検討、セイヨウミツバチとの比較から、神経科学的アプローチまで〜

宇賀神 篤1, 2, 山口 悠太1, 細野 翔平1, 小野正人1 1玉川大学大学院農学研究科, 2学振PD

日時12月11日 15:00-16:30 青葉山キャンパス

日本在来のミツバチであるニホンミツバチ(Apis cerana japonica)は、秋に天敵のオオスズメバチ(Vespa mandarinia japonica)が巣に侵入すると、数百匹の働き蜂が殺到し、「蜂球」とよばれる集団を作り、飛翔筋を震わせて発熱する。蜂球は30分間程維持され、発熱により蜂球内部は46℃の高温に保たれる。オオスズメバチの上限致死温度(約45℃)はニホンミツバチ(約50℃)より低いため、蜂球内でオオスズメバチは死亡する。この「熱殺蜂球形成行動」は、発見以来(Ono et al., 1995 Nature)天敵に対する適応的な防御行動として、科学者のみに留まらず多くの人々を惹き付けてきた。一方で、防御行動としての有効性の裏に隠されたコストや、発熱して高温状態を維持する生理学的なメカニズムについては、注目されないままであった。また、近縁の外来種であるセイヨウミツバチ(A. mellifera)で明瞭な熱殺蜂球形成行動の報告が乏しいことから、本行動はニホンミツバチを含む一部のミツバチに固有であると考えられてきた。しかし、最近の研究から、セイヨウミツバチもスズメバチを熱殺できるだけの蜂球形成能を有することが明らかとなりつつある。  今回のセミナーでは、上記のような多様な視点から熱殺蜂球形成行動を理解すべく演者らが取り組んでいる研究内容についてご紹介したい。

熱殺蜂球形成に伴うコストの検討

山口悠太
熱殺蜂球に参加した働きバチと不参加のハチの余命への影響を調査したところ、参加したハチは不参加のハチに比べ余命が短くなる傾向が示唆された。ニホンミツバチは冬を集団で越すため、秋に熱殺蜂球形成に伴う短命個体が増加することは、コロニー全体の越冬失敗の危険性を増大させると考えられる。熱殺蜂球の形成はオオスズメバチからのコロニー防衛という利益がある一方で、長い越冬期間の前に個々のハチの余命を短縮するリスクをもたらすため、蜂球形成に参加するハチを集約する戦略の存在が想定される。

神経科学的なアプローチからの研究

宇賀神 篤
神経活動マーカー遺伝子(初期応答遺伝子)の発現を指標に、熱殺蜂球形成行動時の脳内の活動領域を解析した。その結果、感覚情報の統合に関わる高次中枢キノコ体の一部の細胞が活性化していることが明らかとなった(Ugajin et al., 2012 PLoS ONE)。さらに、これらの細胞が45℃以上の高温に選択的に反応することから、熱殺蜂球形成時にサーモスタットのような役割を担う可能性が想定された。興味深いことに、これらの性質はセイヨウミツバチでも保存されていた。セイヨウミツバチも熱殺蜂球形成能を有するという細野の研究結果とも一致する。熱殺蜂球形成のような、昆虫の複雑な行動の神経機構を研究する上での初期応答遺伝子の有用性(および限界)についても併せて議論したい。


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2015-11-28 (土) 18:54:05 (666d)